どこでもドアは、誰しもが一度は耳にしたことがある、ドラえもんが持つ秘密道具の定番の一つだ。
私も、「どこでもドアがあれば便利だな~」と子供の頃は何気なく思ったものだ。
社会人になってからも、会社の研修などでたまに、斬新なアイデアの例として「どこでもドア」という単語が出され、老若男女問わず、どこでもドアのインパクトが色濃く世間の脳裏に焼き付いているのだと感じる。
しかし、どこでもドアを実際に実現させようとした場合、一体何が必要でどのようなことが起こり得るのか、少し興味が出てきた。
なので、どこでもドアを私なりに少し科学的に検証してみることにした。
(1) どこでもドアは理論上可能か?
どこでもドアは、扉の向こう側が自分の行きたい場所へ空間的に繋がり、扉を開けるだけでその場所に瞬間移動できるものである。
少しかみ砕いて表現すると、自分の現在位置と行きたい場所の間の空間が、収縮されている感じだろうか?
空間を収縮させるというのは、理論上は可能である。
その理論の1つが、ローレンツ収縮だ。
ローレンツ収縮は、相対性理論から導き出される現象の1つで、光速に近い物体の長さは短くなるというもの。
ローレンツ収縮の公式は以下の通り。
La=Lb√{1-(v/c)^2}
cは光速。
vは物体(この場合はどこでもドア)の移動スピード。
Lbは物体が停止しているときの距離。(この場合はどこでもドアが停止しているときの目的地までの距離)
Laは物体が移動しているときの距離。(この場合はどこでもドアが移動しているときの目的地までの距離)
例として、100km先へどこでもドアで移動しようとしたとする。
どこでもドアは、扉を開けた向こう側が100km先の目的地に繋がるので、100kmの距離を10cm程度に収縮させたとする。
ローレンツ収縮の公式に当てはめてみると、100kmを10cmに収縮させるためには、光速の99.999999999995%まで加速させる必要がある。
実際、どこでもドアを亜光速まで近づけた場合、その衝撃波などで地球上は大惨事になるだろう。
しかし、もしかすると将来、わざわざ亜光速にしなくても、空間を収縮したり捻じ曲げたり出来るような理論や技術が生み出されるかもしれない。
それでも、空間を人工的に操作するにはそれなりに莫大なエネルギーとコストが必要になると思われ、そのエネルギーは亜光速に近づける場合のそれとあまり大差はないと思う。
(2) どこでもドア1回の使用に必要なエネルギー
次に、どこでもドアを光速の99.999999999995%まで加速させるには、一体どれぐらいのエネルギーが必要になるかを考えてみる。
算出に必要な公式は以下の通り。
有名なアインシュタインのE=mc^2に物体の移動スピードを加味した公式だ。
E=mc^2/√{1-(v/c)^2}
Eはエネルギー、mは質量である。
どこでもドアの質量を10kgだとすると、必要となるエネルギーはE=2.846×10^25 Jとなる。このエネルギーは一体どれほどの規模のものか?
ちなみに、現在の世界全体のエネルギー消費量は年間6.0×10^20 Jである。
その47434倍(47434年分)のエネルギー相当が、たった一度どこでもドアを使用するだけで消費してしまう計算となる。
一説によれば、月には全世界のエネルギー消費量の2000年分が眠ると何かで聞いたことがあるが、その程度ではぜんぜん足りない。
太陽の核融合エネルギーを利用すればどうだろうか?
太陽の全方位に放射されるエネルギー量は3.86×10^26 J/sだ。
つまり、太陽の全方位の放射エネルギーを全て利用できれば、 1秒間に13回どこでもドアが使用可能なエネルギー量を確保できる。
しかし、太陽の全方位を全て覆うほどの巨大なソーラーパネルを設置するのはまず不可能だろう。
では、地球に届く太陽エネルギー量を全て利用した場合ではどうだろうか?
地球の大気に入るエネルギー量は1.74×10^17 J/sである。
この場合だと、163,000,000sでようやくどこでもドア1回分のエネルギー量を集めることが出来る。
ちなみに、163,000,000sは約5.17年に相当する。
どこでもドアを使って100km先へ移動するために、5.17年も待つ必要があるということだ。
これだと、普通に車や電車で行った方が早いし効率的だ。
時速100kmで移動すれば、1時間で着く。
プリウスの燃費は約40km/Lだから、3Lもあれば十分だろう。
ガソリン1Lのエネルギー量は3.6×10^6 Jとのことなので、3Lだと1.08×10^7 J。
どこでもドアを使って移動するよりも、車の方が時間だと45278倍早く着くし、エネルギー量だと2.635×10^18倍も効率的だ。
もし、地球に届く全ての太陽エネルギーを、実際に5.17年もどこでもドアに注ぎ込むとなると、地球は氷河期どころの騒ぎでは済まないだろうから、宇宙空間に地球大のソーラーパネルを用意するべきだろう。
しかし、そのソーラーパネルをスターウォーズのデススターみたいに、惑星規模で用意するのにも、それはそれで莫大なコストが掛かると予想される。
この様に考えてみると、どこでもドアというひみつ道具は、我々が気軽に利用できる様な代物では決してないだろうと思われる。
実際には莫大なコストが掛かり、使い勝手も悪い、非常に不便な道具のような気がしてならないのだが、いかがなものだろうか?